ラブブックをもらう

3月で入社時からお世話になっていた先輩が退職しました。理由は市場価値に対して給料が少なく、転職で収入が増えるからだと言っていました。私の会社は特に新卒入社の子に不利な評価制度になっており、入社2, 3年でも転職すると給料がバコンと増えるようです。

私の会社にはメンター制度があり、年齢の近い年上社員をペアにして新入社員をサポートするようになっています。その制度により先輩は私の担当になりました。後に上司から聞いた話によると、先輩は"私の魔性さに動じなさそうな人"として選ばれたそうです。そんなことを言われて恥ずかしい気持ちになりましたが、恋愛のトラブルで居心地が悪くなるのは嫌なのでありがたい配慮でした。

先輩は社内の人と必要以上に交友することがなく、後輩に対しても敬語を使うような人でした。仕事ぶりは真面目でチームメンバー、クライアントからも信頼されていました。私との週に2回の1on1(2人だけのミーティング)では、仕事の質問や相談にアドバイスをしてくれました。的確で丁寧だったので"頼れる先輩"だと周りの社員や上司にも言うようにしていました。

ある時に、先輩が引っ越しをするのにいい場所はあるかと聞いてきました。私は今住んでいる高円寺が気に入っているので、高円寺と答えました。その数ヶ月後、先輩は高円寺に引っ越してきました。私は、あー結局こうなるんだ、先輩は私のことが好きになってしまったんだと思いました。しかし周りの社員がどうして高円寺なのか先輩に聞くと必ず、友人に勧められただけで私が住んでいたのは偶然だと答えていました。

直接的な告白はされませんでしたが引っ越し後、徐々に、やけに優しいな...と思うことが増えてきて、気付いたときには先輩はもう完全に恋をしている人間でした。私は慌てて、今まで何人もの男の人を振ってきたことや自分の好きなタイプは先輩とは違うことなどを先輩に言いました。でももう手遅れのようで、私が何を言っても何をしてもますます私を好きになってしまうようでした。

先輩の退職日に、私が先輩からピンク色の薔薇をもらいました。私が入社してからの1年間が一番楽しかったとだけ言われ、愛の言葉はありませんでした。 告白してくれれば振ることができるのに。叶わない恋に狂う人間を見るのは私も辛いし切ないです。薔薇の後、先輩から映画に誘われました。映画の誘いも断ってもよかったのですが、先輩が会社に返却しそびれたものを私に託す必要があったのでもう一度会うことをokしてしまいました。

映画の後の帰り道で言いたいことがあると言われて立ち止まりました。ここで告白されるんだと思って身構えていると先輩はバッグから本を取り出して私に渡しました。その場で開けてほしいと言われたので、ページをめくると手書きの文字でびっしりと埋め尽くされていました。想定外のことで理解が追いつかず悲鳴をあげてしまいました。好きなんですと言われて、ありがとうございますと返し、急いで家に帰りました。

本には私のこの一年の言動について書かれていました。私が何を言ってそれが面白かっただとか、何をして可愛かっただとかが書かれていました。本の中で私は「明るい、素直、暗い、脆い、優しい」というように形容をされていました。表裏があってミステリアスに見えるのかもしれません。思わせぶりな言動も、そんなこと言ったなー...という感じです。そりゃ好きになっちゃうよってことばかり、私って魔族みたい、言葉を操る魔物。

本の最後に、付き合ってください返事はいくらでも待ちますと書かれていましたが、次の日に「思わせぶりな態度をとってしまいごめんなさい」と返事しました。私だって仲良くなりたかっただけなのに。