家庭教師最終日編

家庭教師をクビになりました。薄々、もうダメかもね、とは思っていました。

高校一年生の姉と中学三年生の弟を教えていました。お姉ちゃんの方は、春に志望校合格しましたが、学校を休みがちになっているそうです。明るくハキハキした性格で、生徒会に立候補したり、体育祭の運営もやったりするような子です。いつも元気なので学校を休んでいるようには見えないのですが、学校でなにかあったのかもしれません。

弟は受験生で、最近塾に通い始めたみたいです。ゲームが大好きで、勉強が大嫌いな普通の中学生。私が見ていないと寝てしまうし、私が見ていても寝てしまいます。問題が解けないと、私の教え方が悪いと言い、同じことを何回教えても覚えてくれません。

クビ宣告は、お姉ちゃんからでした。「先生は優し過ぎるから、弟は先生のこと舐めてるし、私もなまけちゃうんです。次の家庭教師は"男"の先生にお願いすることになっているんです。」と、言われました。そっか、いままでありがとう。私はもうふたりの先生じゃないけど、これからもずっと応援しているよ。さようなら。

本当の理由は、私が優しいからではない。これはお父様の問題なのだ。お父様は、明らかに私に甘かったです。最初のころは、たまに食事に連れて行ってくれるくらいでした。いつの間にか、毎回夕食を作ってくれるようになり、週末の指導日には終わったあと、近所のお寿司屋さんに連れて行ってくれるようになりました。帰り際には煙草をくれました。これも最初は1本だけ。いつの間にか2本は吸うようになって、毎回、1箱お土産に持たせてくれるようになりました。お金も、指導料以外をもらうことは規則違反ですが、もらっていました。段々金額が増えて、3万円くれたときもありました。あとは、お父様の母の形見、をもらったこともありました。さすがにビビりましたが、もらっておきました。変な形のライターで可愛いです。

当然といえば当然です。どんな家庭教師が来るか選べない状況で、私だったのですから。奥さんはほとんど家にいないし、家にいても何故かずっと誰かと電話している。子どもたちにはオヤジと呼ばれ、まるで召使いみたいに扱われている。夜勤の仕事、子供たちの学校や塾への送迎もしていて、疲れているでしょう。そんな人が「お仕事おつかれさまです♡」とか「優しいんですね♡」とか言われたら、そうなりますよね。

ある日、指導後にいつものように玄関に行ったら「申し訳ないんですけど、今日で煙草最後にさせてくだい。奥さんに怒られちゃって。先生、可愛いから。このひと時が好きだったんですけどね。」と言われました。その後、電話がかかってきて、「年甲斐もなくちょっかいを出してすいませんでした。」と言われました。奥さんが家庭教師の会社に電話したらしいです。何を言ったのか分かりませんが、奥さんが怒る理由はいくらでもありますね。

お姉ちゃんからのクビ宣告のあと、最後に予定していた指導日は、お父様が私に合わせる顔がないと言ったらしくて、中止になりました。その予定していた日、お姉ちゃんは私の最寄り駅まで来て、クッキーとリップクリームをくれました。寂しいと言っていました。

私はそこまで寂しくないです。なぜなら、クビ宣告の日、インターンで昇格したから。あとは、お姉ちゃんが高校辞めたり、弟が志望校に落ちて、責任を感じたくないから。